他人が書いた文章やイラスト、写真などを勝手に使用することは著作権法で禁止されています。鈴木将仁が運営しているご当地キャラクター「今川さん」のイラストなどにも著作権があります。先日、静岡市食品衛生協会が交付するステッカーや宣言書に「今川さん」のイラストが採用されたとお伝えしましたが、これも事前にイラスト使用についての申請をいただいています。
しかし、ネットを見ていると他のサイトや本などから画像や文章を拝借しているケースがよくあります。これは違法でしょうか? 今回は著作物の「引用」について確認したいと思います。
要件を満たした「引用」は著作権法で認められている
まず、著作権とは自らの思想・感情を創作的に表現した著作物を排他的に支配する財産的な権利のこと。簡単に言えば、自分が創りだした文章や音楽、画像、コンピュータプログラムなどを他人に勝手に使わせない権利です。
この権利には有効期限が定められていて、以前の日本では著作物等の保護期間は原則として著作者の死後50年までとされていました。これが、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の締結によって、原則として著作者の死後70年までとなりました。
著作権は商標や特許などとは違い、特に登録や申請は必要ありません。あなたがチラシの裏に落書きを書いた瞬間に、著作権は自動的に発生します。
この著作権について定めた日本の法律が「著作権法」ですが、その第三十二条に「引用」という項目があります。
(引用)第三十二条
『著作権法』
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
ここでは、いくつかの要件を満たせば他人の著作物を「無断で」引用できるとしています。
ではその要件とは何でしょうか。ひとつずつ確認していきましょう。
公表された著作物であること
これはすでに世の中に公開されたコンテンツであるということ。例えば、企業の極秘資料の一部を転載してしまった場合は、それがどんな形式であっても、適正な引用とはなりません。
逆に、本として出版されていたり、ネットで公開されていたりするコンテンツは「公表されている」とみなされ、引用の対象となりえます。
引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
ここでいう主従関係というのは、自分自身のコンテンツと引用部分との関係であり、当然ながら自分のオリジナルコンテンツの方が「主」である必要があります。
例えば、「この本は私がいちばん好きな作品をみなさんに紹介するものです」という内容の前書きを1ページだけ書いて、そのあとに夏目漱石の『それから』を丸ごと転載した本を出版したとします。
これは明らかに引用部分(『それから』)が「主」で、自分自身のコンテンツ(前書き)が「従」ということになりますので、正当な引用とはなりません。この場合、単純な量(文字数)だけではなく質も問われるということに注意してください。
引用部分が明確になっていること
また、引用部分とそれ以外の部分が明確に分けられていないと、上記の「公正な慣行」に合致しないとみなされます。
具体的には、引用部分をカギカッコ「」や引用符 “” で囲ったりして「これは引用ですよ」ということを明確にしなくてはいけません。
書籍では引用部分の前後に空白行を入れて、引用部分を2、3文字下げるのが慣例となっています。
ブログなどでは<blockquote>タグを使って、引用部分を囲ったり字下げさせたりします(実際の見え方はブログやサイトの設定によって変わります)。
最上川は、みちのくより出て、山形を水上とす。ごてん・はやぶさなど云おそろしき難所有。板敷山の北を流て、果は酒田の海に入。左右山覆ひ、茂みの中に船を下す。是に稲つみたるをや、いな船といふならし。白糸の滝は青葉の隙ゝに落て、仙人堂、岸に臨て立。水みなぎつて舟あやうし。
松尾芭蕉『奥の細道』
五月雨をあつめて早し最上川
出所の明示がなされていること
上の例でいえば、松尾芭蕉『奥の細道』という表記がこれにあたります。特に難しいことはないと思います。忘れずに明記しましょう。
引用を行う必然性があること
これは、なぜそれを引用しなければならないのかという必然性です。明確な基準を示すことは難しいですが、内容と関係ないのに目立ちたいという理由だけで『鬼滅の刃』の絵を引用してはダメということでしょう。
絵画を忠実に撮影した写真には著作権が認められない
さて、これまで著作権法における「引用」について確認してきましたが、ここからはちょっと別の話。
例えば銅像の写真があったとします。まず、銅像にはそれを作った作者の著作権があります。これがロダンのような100年くらい昔の人であればその著作権は消失していますが、それとは別に写真を撮ったカメラマンの著作権というものもあります。カメラマンはその銅像を美しく撮るためにアングルや光の当て方などを自分なりに考えたわけですから、その写真にはカメラマンの著作物性があることになります。
ところが絵画などの平面的な作品の場合、「版画写真事件」という事件の裁判で「平面的な作品をできるだけ忠実に再現するために撮影した写真について著作物性を認めることはできない」という判例が示されています。
凹凸をわずかに有するものを含み、ほぼ平面的な原画を忠実に再現した写真については、忠実に再現する以上撮影位置は正面以外に選択の余地がないし、光線の照射方法等の技術的な配慮についても忠実な再現が目的であって、独自に何かを付け加えるというものではない
Wikipedia「版画写真事件」
ですから、上で使っているレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』の写真は Wikipedia から引用しましたが、これを撮ったカメラマンに著作権はないということになります。
まとめ
著作権に対する意識というものはネットの世界ではルーズになりがちですが、ちゃんと考えていかなくてはならない問題です。
だからといって、著作権の侵害を避けるあまり、必要な引用も控えて自分の作品をつまらないものにしてしまうのも、もったいない話です。
著作権や作品の引用に対する正しい知識をもって運用することを心がけましょう。